少し前から次に行くのは”東北の方角にある山”と思っていました。
そうして向かった先は那須茶臼岳でした。

寒さと風に備えて登山スタイルで。
ロープエェイ山麓駅に着くと結構な強風。順番待ちの間に駅員さんのレクチャーに耳を澄ませます。
横風に体が持っていかれると大体風速20メートル。そうなるとロープウェイは運行中止になるとのこと。

山頂駅に着くとすでに突風の域。
とりあえず行けるところまで行こうと歩き出しました。
これは既に風速20m近いのでは・・・
ニセコアンヌプリで途中で引き返した事が頭を過ります。
でもこみ上げてきたのは恐怖ではなく笑いでした。
いやー、そう来ましたか!あははははーっ
久しぶりにスイッチが入りました。
それは自然の極の中に一人立つ時ふつふつと湧いてくるものであり、私という人間はそのような時、”生きている歓び”を感じるのです。

タイムラプス動画のように雲が流れてゆきます

普通に歩いて片道1時間の往復、山頂近くでエッセンスを作っても余裕のトレッキング、のはずでした。
しかし、です。
風を遮るものが一切なく、風圧の中転ばないよう歩くのがやっとの稜線を行く道。

大岩に着いて岩陰でひと休み。霰とも小雪とも言えない白いものが風に舞っています。あまりの風の強さに当初ここを目標に歩いていました。
けれども軽装の観光客も多くいて岩に登りたい様子。ここでは作れそうにありません。
それに、もう少し行けるのではないか、行ってみたいと言う気持ちがありました。

山頂直下のコルのようなところ、ここで立っていられなくなりました。
どうにも先に進めません。しゃがんで岩に掴まりながら、一瞬の風の隙をみて次の岩まで移動する、その繰り返しです。
あと少し、山頂は見えているけれど体感では風速30mを超えているのではないかと思えました。
今まで強風の中の強行軍ーーチーズリングの原野、真冬のティンタージェルなど経験しましたが、私史上一番の強風でした。
それでも頂上へとこの稜線の風の難所を超えて行けないものだろうか、自分の限界と可能性を見極めるような思いで自問していました。

けれども、どのみち山頂でエッセンスを作ることは無理だと判断しました。瓶が転がってしまったら惨事になります。
私たちが身を隠した大きな岩は長年の雨風で丸く削られており、山頂の奥宮の祠が見える窪みに瓶をしっかりと固定しました。


そうしてしばらく身を屈めて待った後、瓶をザックに回収しようとしたその時、メガネが横風に拐われました。
どうやって下山したものかーー途方に暮れるより先にとにかく探さなければ。
妹のメガネを借り飛ばされた方向をみて這いまわり、諦めようとしたその時、2mほど先の地面にメガネがありそこを通ろうとする男性の足が、、「あ、ちょっと待ってください!」と思わず声が出て、次の瞬間男性の足がメガネの隣に着地。
とにかく、無事で良かった。

下りは2度ほど足を取られ、軽く尻餅を着きました。
そして登りの人に道を譲って少し巻く感じで歩いていたら、風にザックが煽られて完全に仰向けになり尾骶骨で着地しました。”しまった、やってしまった”
一瞬の出来事で、着地したのが平らな丸い一枚岩の上だったことにホッと胸を撫で下ろしたと同時に、周りに登山者の姿が見えず、自分がルートから外れていることに気がついたのです。
転んだショックもありましたが、そのような平らな岩の上で止まり崖を転げ落ちなかったこと、ルートから外れていることに気づかせてくれ、そしてエッセンスは無事だったこと”大いなる救い”に感謝しました。
幸い打ったのはそこだけで動くことができ、ルートに戻ることができました。

そんなこんなで下山したのですが、温泉に立ち寄るべく湯本でバスを降りました。
湯泉神社にお参りし、温泉へ。
その頃には軽い鞭打ちのような症状が肩から首にかけてではじめていました。

ゆっくり鹿の湯に浸かった後で、持っていたエマージェンシークリームを痛みや違和感のあるところに塗りたくりました。
このクリームを愛用して10年以上経つと思いますが、今回もその効き目を再確認しました。
同時に自分の足首の弱さや足が地についていない傾向もひしひしと感じ、思えば登山の前にこれを足に塗っておけば良かったと思いました。グラウンディングの助けになった筈です。

帰りのバスの車窓から低い山の端に日が沈むのを、その最後の輝きを見届けていると、ふと別の雲に目がとまりました。
大いなる存在が差し出した掌、のように私には感じられたのです。